【第2回 築10年】
今と未来のライフスタイルを 共有した先に生まれる「設計の耐久性」
今回はちょうど10年前、2009年に私自身が設計を担当させていただいたTさん宅をご紹介します。比較的コンパクトな面積の中で、求められたさまざまな要素を立体的に組み合わせ、2階にリビングを配置した二世帯4LDK+ロフトというお住まいになりました。
1階にはTさんのお母様が暮らすミニキッチン付きの洋室を用意。玄関から別動線に分けてプライバシーの確保に配慮しました。ゆとりのある玄関土間は、まだ小さかった息子さんとおばあちゃんが遊べる空間になることもイメージ。…と、久しぶりに訪れたお住まいで設計意図を振り返っていると、「1階の塗り壁は、家族で塗らせてもらったんですよね」と微笑むTさん。そうでした。現在は中学生になった息子さんにもその記憶があるそうで、人生におけるモニュメントのひとつとしてカタチに残ったのは素敵なことだと思います。決して上手な塗り壁ではないのですが、それがいいんです。
このように時が流れるとともに、暮らしの大きな分岐点も訪れます。数年前にお母様が亡くなられた後、1階の洋室はカイロプラクティックの資格を取得した奥さんのサロンになりました。「2階に家族がいても気にならない位置なので、『専用スペースとしてつくったの?』と言われることも多いですよ」と奥さん。ここまでピンポイントの想定はできませんでしたが、プランを練る際は10年、20年、さらにその先の暮らしについて、お客様とできる限り共有することを心がけています。家は品質も大事ですが、設計も大事。きちんと一緒に考えた分だけ、末長く使い勝手のよい家が生まれます。Tさんからも「10年住んでみて、こうすればよかったという場所が本当にないんです」と言っていただけました。
インテリアはヴィンテージ感のあるデザインにまとめています。もともとレトロなアイテムがお好きなご夫妻で、お手持ちの家具にサイズや雰囲気が合う空間づくりがテーマとなりました。木や石などの自然素材は、10年間のエージングを経て、いい風合いに。とはいえ、ワインでいえば、まだまだ若い状態でしょう。ご家族の暮らしも、これらの素材の熟成とともに、さらに味わい深く、豊かになっていくことを願っていますし、家という空間には、それを左右するほどの力があると思っています。だからこそ、これからもお客様のライフスタイルにしっかりと向き合っていきたい。そのことをあらためて感じる訪問となりました。Tさん、ありがとうございました。
|| 完成当時(10年前)の様子
Report by Replan