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住み継ぐ家

【第3回 築10年】
開放的で自由度の高い空間が徐々に住まい手の色に染まっていく平屋

薄い緑色の片流れ屋根と道南スギを張った外壁で構成されているシンプルな外観。外壁の色がいい具合にくすんできている。手前の木の根元には鹿の角の表札が。背後の斜面もKさんの土地で「ベリー類を植え始めました」と奥さん

今回訪ねたのは、小さな川沿いにある木々に抱かれた広い敷地に建つKさん宅です。片流れ屋根と板張りの壁というシンプルな外観がいいですね。玄関以外のドアはトイレにしかないという開放感たっぷりの平屋で、2012年の完成から10年目を迎えました。当時の私は資材の搬出入などで各現場を駆け回っていましたので、工事中のKさん宅にも来たことがあります。弊社の注文住宅の中でもかなりユニークな住まいのため、とても印象に残っています。

弊社では「時とともに育つ家」をコンセプトの1つとして掲げていますが、内外観ともに木材やコンクリートなどの素材を現しで使っているKさん宅は、まさにそれを体現した住まい。年月とともに古めかしくなるのではなく、味わいが増していく様子を見ることができて、本当に嬉しいですね。

玄関ドアを開けると、広いL字型の土間が登場します。土間を囲む壁2面は構造材を利用した大きな棚になっていて、バッグやシューズ、道具類などをディスプレイ。まるでショップやアトリエに入ってしまったかのような感覚になります。これを実現するために外断熱工法を採用したほか、通常はやらないような工事が多く、担当した現場監督はかなり苦労したみたいです(笑)。

「はい、大変そうでした(笑)。でもおかげさまで、とてもいい家になりました」とKさんに言っていただきましたが、私たちもKさんのご要望には感謝しているんです。数年前からグループ会社でカフェ(2店舗)を運営しているのですが、どちらも外断熱を取り入れ、壁面ディスプレイにしています。Kさん宅の経験がなかったら、違うインテリアになっていたかもしれません。

それにしても絵になる家ですね。Kさんがキッチンで何気なく豆を手挽きしてコーヒーを淹れてくれたり、奥さんがDIYでつくったリビングのソファにお二人で座って野鳥を観察しているというお話などを伺いながら、本当に家時間を楽しんでいらっしゃるのが伝わってきました。Kさんは狩猟免許を持っていて、鹿などの解体の最終段階は玄関土間で行うとのこと。今回訪問した際も、お知り合いの方がやってきて、その場で食べやすくカットしておすそ分けしていました。「元々は バイクを入れたくて土間を広くしてもらったんです。ところが途中で狩猟免許を取ったため、今はこんなかたちで使うようになりました」。

暮らしの変化に柔軟に対応できる自由度の高い空間が、10年を経て、素材の風合いの変化だけではなく、少しずつご夫妻の色に染まっているのを感じます。また10年後に訪れてみたいですね。「ぜひ、いらしてください。そのときは鹿の角だらけになっていたりして」と笑うKさん。快く迎えていただきありがとうございました。

広い土間と天井まで伸びる構造現しの造作収納が出迎える玄関スペースに仕切りなどはなく、そのままLDKとつながる。住宅では構造材と内壁の間に断熱材を入れる「内断熱」が一般的だが、外壁側に断熱材を入れる「外断熱」によって、構造材を生かした巨大な棚を実現。経年変化で木の色も味わい深くなってきた

玄関土間で鹿肉をさばくKさん。作業台は自作した。「土間にはずっとバイクを入れていたんですよ。そのために広くしたんです。でも狩りに行くようになってから、バイクはガレージへと、使い方が変わりました。ぜひまた10年後に来てください。そのときはどうなっているかな。鹿の角だらけになっていたりして(笑)」

玄関土間から見た屋内全景。柱や梁の現し、片流れ屋根の形状を生かした勾配天井など、木の温もりが存分に感じられる空間になっている

玄関とLDKの仕切り壁やバスタブなど、ご夫妻が少しでもいらないと思ったものは省かれた。室内扉もトイレだけとなり、開放的な空間を生み出している

最奥部にあるプライベートルーム。玄関土間と同様、デスクまわりに構造材を生かして収納を設けた。窓の外には、あと2棟ほどの住宅を建てられそうな敷地が広がり、畑として活用している

漆喰の塗り壁で囲まれたベッドルーム。プライベートルームとシームレスにつながっている

玄関から建物最奥部まで、一直線の動線上にLDK、水まわり、プライベートルームと寝室が並び、屋内全体を見通すことができる。一体感のあるゾーン分けは平屋ならでは

「朝はリビングの窓際に座って、野鳥やリスを見ていることが多いですね」と奥さん。リビングのソファは奥さんが現在マイペースで製作中

|| 完成当時(10年前)の様子

Report by Replan